日本酒好きにとっては、「東の灘、西の城島」というほど久留米市城島地区に集結している酒蔵群は「聖地」なのだ。今年も2月中旬に蔵開きが行われ、飲みくらべや角打ちができる町民の森は”呑兵衛(のんべい) ”たちのパラダイスとなった。
いったい城島地区にはどれほどの酒蔵が集まっているのだろう。今年の第25回城島酒蔵開きに参加した酒蔵は8社、杜の蔵、瑞穂錦、萬年亀、比翼鶴、花の露、筑紫の誉、池亀、旭菊、これら各蔵の自慢の酒が、12枚つづりで700円のチケットで飲めるのだ。このチケットには御猪口がついており、これをもって飲みくらべコーナーに向かう。まず普通酒はチケット1枚で一杯、吟醸酒はチケット2枚で一杯、そして大吟醸はチケット3枚で一杯となっている。ここで各蔵の酒を心ゆくまで飲みまくるのだが、それだけで 呑兵衛が満足するはずはない。そこには焼き鳥、たこ焼き、焼き牡蠣など様々な屋台が所狭しと並んでおり、酒を飲みながらそれらを頬張り、あちらこちらで地面に座り談笑している。昼間から老若男女問わず堂々と酒が飲めるのだ。
そして恒例なのが飲みすぎて酒に呑まれた人たちの千鳥足と、BGMのように時折流れる救急車のサイレンだ。飲みすぎは注意だが、それでもこの日ばかりは無礼講、誰もが笑顔で酒を呑み続けるのだ。カメラを向けると誰もが笑顔になり、撮ってくれ!と声をかけてくる陽気な酔っ払いたちがそこら中にあふれていた。
甘い日本酒のにおいが漂う会場では、さすがに昼間から酒を公の場で飲むだけあって、夜の歓楽街のような怒号や罵声は聞こえない。代わりに誰もが笑顔で酒を楽しむ姿を見ているだけで、こちらまで楽しい気分になるのだ。酒蔵開き限定酒などもあり、それを目的で訪れる人も多い。公共交通機関に加え、シャトルバスなども運行されており、誰もがテーマパークにでも行った気分でまだ肌寒い冬の陽射しの下でのんびりと流れる時間を楽しむのだ。酒を飲めなくてもとりあえず楽しい雰囲気は開場全域で感じることができる。
それでも日本酒業界にとっては厳しい時代となっている。2017年には城島地区にあった有薫が167年の歴史に幕を閉じた。安い発泡酒やワインなどに押され、日本酒の消費量は右肩下がりだ。何とか打開すべく海外への輸出も進んでいる。事実海外輸出量は右肩上がりで、これからの時代は海外でいかに評価されるかにかかっている。海外、特に米国、香港、シンガポールなどででは「SAKE」として人気も高いのだが、日本国内で普通に目にする普通酒、本醸造酒、吟醸酒、大吟醸酒は海外では見かけることは少なく、純米酒が主流だ。
その理由の一つは酒税法にある。たとえばアメリカの場合、醸造アルコールを添加する普通酒、本醸造酒、吟醸酒、大吟醸酒は混合酒扱いとなり税金が7倍も高いのだ。それに対して純米酒、純米吟醸酒、純米大吟醸酒はビールなどと同じで、税率が低いのだ。その為実質的に純米酒でなければ出荷する意味がないのだ。また”ピュアライス”酒のほうが、ヘルシー志向の海外ではウケるという側面もある。
九州は焼酎文化が強く、本州の人間にとってはあまり日本酒というイメージはなかった。しかし福岡と長崎に関しては間違いなく日本酒県であり、うまい酒がひしめき合っているのだ。そして城島地区は昔から九州の日本酒の中心であったのだ。そんな歴史と酒をとりあえず楽しめ!これが酒蔵開きを楽しみ尽くすための秘訣だ!まだ行ったことがない人は、是非とも来年こそは足を運んでほしい。
H.Moulinette