創業51年のケーキ屋さん御座船本舗必勝堂が閉店!?今だからこそ必勝堂のたぬきケーキについて語ろうと思う

福岡県は久留米市十二軒屋の交差点にあるケーキ屋さん、必勝堂御座船本舗十二軒屋店。
このお店が今年の4月末日を持って閉店した。

私がこのお店に行ったのは昨年のこと。
十二軒屋という交差点のただ中にあるお店なので目につくことは多かった。
ただ駐車場が不便なのでなかなかお店の中に入ることはなかった。
それが、ある時、お店の外からそっと中を覗いた時にたぬきケーキがあるのを見つけた。

たぬきケーキ。

この存在を知らない人は多いだろう。
私も東京でこの存在を知った。

それは東京の文学フリマで「まつもとよしふみ氏」が発行しているzine「たぬきケーキめぐり」に出会ったときだ。
zineの作者まつもとよしふみ氏は「たぬきケーキのあるとこめぐり」というブログを連載している。
そこには全国のたぬきケーキの情報が載っている。
文学フリマで販売されていた「たぬきケーキめぐり」というzineは、いわばブログのペーパー版である。

©KYism

たぬきケーキは、たぬきを模したケーキのことで、多くはバタークリームとスポンジとチョコレートでできている。たぬきケーキの発祥は、詳しくわかっていないが、昭和30年代辺りに日本のどこかで生まれたらしい。高度経済成長期、たぬきケーキは町のケーキ屋さんからケーキ屋さんに広まり、愛らしい見た目のたぬきケーキは町のケーキ屋のアイドル的存在になった。
時代が平成に変わったあたりからたぬきケーキを取り巻く状況が変わった。町のケーキ屋さんの代わりにコンビニが台頭し、スイーツが多様化した。コンビニでは流行りのスイーツが気軽に手に入るようになり、町のケーキ屋さんの需要が減り、町のケーキ屋さんのショーケースから時代遅れのお菓子は追い出された。たぬきケーキはこうした時代の変化とともに全国から姿を消していった。
※たぬきケーキの説明はまつもとよしふみ氏のzine「たぬきケーキめぐり」を参考にしています。

とにかく私はこの「たぬきケーキめぐり」という書物にハマったのである。
なんせ文章からにじみ出るたぬきケーキに対する興奮、写真から伝わるたぬきケーキに対する愛が半端ない。

食べてみたい。

私はサラリーマン甘太郎のような気分でたぬきケーキを一口食べてみたいと思った。

©KYism

御座船本舗必勝堂に鎮座していたたぬきケーキは「たぬきちゃん」という名前で売られていた。
もはや鼻なのか口なのかわからない、たぬきちゃんの顔の白い部分。ドラえもんの顔の髭が生えている部分みたいだ。
同じく鼻なのか口なのか判別つかないくりんっ!と尖った突起物も愛らしい。
たぬきちゃんの耳を象っているチョコレートの部分。チョコレートの円柱は、もはや耳ではなく角だ。
この角のせいでたぬきちゃんは狸ではなく神聖な生き物のようにも見える。
おそらくたぬきちゃんを擬人化した際には「ひぐらしのなく頃に」の羽入ちゃんのようになるはずだ。
そして注目するべきはたぬきちゃんの目だ!
今日日黒いきれいな光沢のチョコレートはいくらでもあるはずなのに、おばけのホーリーの体色のような非光沢のチョコレート。
人の作りしものであることを証明するかのような焦点のあってない瞳。

素晴らしい。
可愛い。
この素晴らしいたぬきちゃんに祝福を!

感動するべきは、食べた時の食感だ。
舌の上に広がるしっとりしたケーキの食感。
口の中に広がり鼻道にまで立ち上るバターの香り。
そして、この地球上におそらく嫌いな人はあまりいないであろうチョコレートの甘み。

私が子どもの頃、近所にパン屋があった。
そこのパン屋ではトトロとかアンパンマンとかピカチュウとか人気のキャラを模した菓子パンが売っていたが、正直言ってあまり美味しくなかった。
食感はぱさぱさで、油はべちょべちょだった。
まだ今ほどパン屋ブームとかカフェブームがなかった頃の話だ。
キャラクターを模した食べ物といえば、そういうイメージしかなかったから、たぬきちゃんを食べた時の感動が人一倍大きかったのだ。

ところで、私がこのたぬきケーキいや、たぬきちゃんを買った時にお店の女将さんから「もうすぐお店を閉めるのよ」と聞いていた。
まあ、理由はよくある後継者がいないからだ。
こんなご時世にお菓子屋を継ぐのは大変なことだろう。
仕方がない。
創業51年の久留米の銘菓店は平成中に幕を閉じ、時代は令和に移り変わった。
時代と共にまた一つたぬきケーキが失われた。
これからたぬきケーキはどうなっていくのだろう。

参考サイト
たぬきケーキのあるとこめぐり / 全国たぬきケーキ生息マップ

 

K.Takeshita