奇祭という言葉をご存知だろうか。
字のごとく奇妙なお祭り、奇っ怪なお祭り、珍奇なお祭り、まぁようは独特な風習のお祭りということである。
有名どころだと巨大な男根を担ぐ愛知県の田縣神社豊年祭がある。
世界に目を向けるとトマトを投げ合うスペインのトマティーナ、カラフルに染まるインドのホーリー祭などが見つかる。
奇祭…なんだか面白い。間近で見てみたい。
だけど奇祭なんてそれはナショナルジオグラフィックとかBBCで見るお話。
私になんて関係ないのね……。
なんて思っていたが、実はすぐ近くにあった。
場所は福岡県の南部、久留米市のすぐ隣の筑後市という町だ。
この町では毎年8月の盂蘭盆の時期になると久富観音堂盆綱曳という祭りが行われる。
この祭りの主役は地元の子どもたち。
子どもたちがなんと全身に真っ黒の煤を塗るのだ。
そして藁で編んだ角と腰蓑をつけて、重さ約400kgの巨大な綱を曳き回して町中を練り歩く。
この祭りは江戸時代初期に始まったとされる施餓鬼行事。
不幸にして成仏できずに亡くなった亡者の例を供養するために始まった。
苦しむ亡者を盆の一日だけ鬼が綱で引き上げて、極楽浄土で食べ物を与えて供養する意味が込められている。
全身真っ黒で角を生やした子どもたちの姿は、亡者を引き上げた鬼というわけだ。
また、1641年とその翌年の大凶作によって飢えや病気による死者が続出。その際多くの子どもたちがなくなったことから、その子たちの霊を鎮めようと、こうして祭りでは子どもたちが主役となって綱を曳くことになったと言われている。
物見遊山として見に行っただけのつもりだったが、まさかこんなに深い歴史と意味のある祭りだったとは。
大凶作による飢饉は起きなくなったが、子どもをとりまく社会問題が改善されない現代日本で、今後このお祭りはどんな意味を持っていくんだろう。
K.Takeshita